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2回 紅茶と読書会 報告

課題本 「野性の呼び声」 ジャック・ロンドン 著
​2018/6/3@ 雑司ヶ谷

「ジャック・ロンドン著 野性の呼び声」

1903年 発行 

 

~1890年代末 極寒の大地でそり犬として生きる事 ~

19世紀末 ゴールドラッシュに沸くカナダ・アラスカ国境地帯。

サンフランシスコの裕福なターナー家の飼い犬であったバック。

屋敷に君臨していた彼はある日、使用人の男に連れられ売り飛ばされてしまう。

暖かいカリフォルニアから連れ去られた先は極寒の大地であった。

賢い彼はそり犬としての運命を受け入れ、そしてプライドを持ち死ぬか生きるかの世界を生き抜いていく。そしてその先にあるもとは・・・

放浪者、社会主義者、そして作家としての顔を持つ、ジャック・ロンドンの代表作。

 

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以下内容に触れる箇所もございますのでご了承ください。

 

-ご挨拶-

 

紅茶と読書会、第2回として「野性の呼び声」を課題本とする会を開催いたしました。

今回は7名の方にお集まり頂きました。

この本については駒沢公園近くにある本屋「SNOW SHOVELING 」の店主・中村さんが度々この本に言及されており課題本にしたいと考えていました

予備知識ゼロで読み始めると、始まりは犬目線。なるほどこの後人間が出てくるのだな、と勝手に思いつつ読み進める事数十ページ、「あ、これは犬の話だ。」と気づきました・・・。

しかしそれを受け入れてしまえば、ページをめくる手が止まらないくらい引き込まれてしまい2日ほどで読了。ふつふつと心の中に何かが湧き上がるのを感じた物語です。

 

今回の紅茶

1.ルフナ&ディンブラ(スリランカ) STGFOP 水出しアイスティー

2.サバラガムワ(スリランカ)FFBP&アッサムSTGFOP  ミルクティー

 

1.主な登場人物、犬

 

・バック(犬)

カリフォルニアで飼い犬として過ごしていたが、アラスカに売り飛ばされる。 セントバーナードとシェパードのハーフ犬、躯体は見事で、見た目は狼っぽいスーパードッグ。

 

・スピッツ(犬)

キャンキャンと吠える小さい犬ではなく、サモエドと言うノルウェーはスピッツベルゲンから来た白い大きな犬。バックのライバル。性格は悪いが仕事はやる嫌な奴。

・ペロー&フランソワ(人)

カナダ政府の急送便達吏。そり犬・バックの最初の主人。公正で経験のあるコンビ。

犬たちをうまく扱いチームとして仕上げている。

 

・ソルクレス(犬)

ベテランそり犬。エスキモー犬であり、常に泰然自若としておりスピッツですら彼には手を出さない。バックとは仕事犬として認め合う。

 

・スコットランド人との混血男

そり犬・バック2代目の主人。郵便輸送隊を編成。急送便官吏よりやや仕事のレベルは落ちると見られる。

 

・ハル、チャールズ兄弟&マーセデス

そり犬・バックとしては最後の主人たち。経験も知識、知恵もないド素人。無知ゆえに当然の報いを受けることに。

・ジョン・ソーントン

最後主人にして最愛の主人。バックと生涯を共に過ごすかと思われたが・・・

 

2. カリフォルニア~ジョン・ソーントンとの出会いまで

 

カリフォルニアでのほんと暮らしていたら突如アラスカに売り飛ばされてしまったバック。

普通こんなことが起きたらまずパニックになると思いますが、バックの現実許容の早さは並ではありません。

そり犬としてしか生きていくことが出来ない運命を受け入れたバック、仕事の飲み込みも異常に早く、飼い主たちを驚かせます。バック半端ない。

荷物を数千キロ離れた場所まで届ける仕事は当然のように非常に過酷であり、氷点下20度が当たり前の気候で、時には脱落者も出ます。そして脱落したものは容赦なく自然に命を奪われてしまうのです。

また野性のエスキモー犬に襲われることもしばしばで、ただの配送とは次元が違う仕事ですね。

そうした厳しい環境の中、隊の一員と言う立場から始まり、徐々に集団のなかで序列を上げていくバック。

はむかう犬や、和を乱そうとするもの、野性の敵を力でねじ伏せていき、人間だけでなくソルクレスを始め周りの犬達もバックの強さ、能力を認めていきます。

チームとして何をしなければいけないのか、バックはそれを察知する能力も急速に身に付け、やがてリーダーとして隊を率いることとなります。

 

チームとして印象的なシーンはp99のデーヴが動けなくなり役目から外される部分です。

彼はそのことを非常に嫌がり、代わりの犬が自分のポジションに就こうとするのを鳴き叫びながら懸命に妨害するのです。

犬にとっても戦力外通告されることは死ぬほど辛いんでしょうね。
人間の組織と重なる分を感じますし、人も犬も必要とされる場所にいるのが一番と思います。


ちなみに会社とか学校でも絶対邪魔したり妬んだりする人間はいますからね、

この物語ではスピッツがその役どころとなって、しょっちゅうバックを攻撃します。

 

物語の中でバックは4名(集団)の主人に仕えることになります。

最初は1.フランソワたち、2.混血の男、3.チャールズ達、そして最後は4.ソーントン。

主人たちの能力、性格等はうまい具合に良→普通→悪→最良と言う並びになっています。

参加者からは、アメリカ人作家だからかやはり話の筋にエンターテインメント性をしっかりと持たせている、と言う意見もありました。

確かにストーリーとして楽しいところ、辛いところをうまい具合に配置し飽きさせない展開になっていると思いました。

映画はまだ全盛の時代ではないですが、その後のハリウッド映画に通ずる精神を感じますね。

この物語のハイライトはジョン・ソーントンと出会った後でしょうか。

過酷な描写が続く中でそり犬としての役目から解放されたバックはソーントンのもとで束の間の安穏とした時期を過ごしますが、ここは読者も非常にほっこりする部分でしょうね。

主従愛の力か、超人ならぬ超犬バックとしてとんでもないも活躍します。

 

3.野性とは

 

「野生の呼び声」ではなく「野性の呼び声」と言うタイトルからもわかるように、「野性」と言うものが一つキーワードになっています。

バックはそり犬として極北の地で日々を生き抜くにつれ、カリフォルニアにいた時には感じなかった、自分の中の「太古の血」を認識するようになります。

人間が作った世界ではわからない、野生の動物としての本能とも呼ぶべきものでしょうか、この感覚を徐々にバックが身に付け行く描写が非常に印象深いです。

ストーリーの面白さとこの「野性」を会得していく過程、この二つがこの小説の魅力となっているでしょう。

この本を読んで思いだしたのが「おおかみこどもの雨と雪」言うアニメ映画です。

深くは書きませんが狼男と人間の間に生まれた少年「雨」が、東京から山間部へと移住し、大自然と触れ合い、徐々に狼としての本能を獲得していく過程と非常に似ていると思いました。

おそらく監督の細田守はこの本を読んでいつかこのテーマで映画を作ろう、と思ったんでしょうね。この小説は映画の元ネタとなっているようです。

ちなみにこの映画も非常に素晴らしい作品なので是非ご覧ください。

 

4. 雑感

 

200ページちょっとと長すぎず、訳文も良いので課題本としては丁度良かったなと思いました。(前回の罪と罰の反省を踏まえ・・・)

参加者の方からも割と好評だったので、今後もこの辺のページ数で本を選んで行こうかと思います。

読んでいて静かに自分の中の「野性」が込み上げてくるような、そんな物語でした。

純文学とエンターテイメントの中間のような小説、と言う意見もでましたがその通りだと思います。しかしこのように静かに、しかし心から感情を引き出してくれる物語が良い小説であり、名作言えるのではないでしょうか。

今後もそういった作品を基準として選んでいくつもりです。

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